セシアの翼

プロローグ「村に伝わる女神セシアのおはなし」

昔々、この村がまだ神の国だったころ。
ウルとセシアという仲の良い双子の姉妹がいました。
活発で積極的、太陽のようなウル。
おっとりしていて内気な、月のようなセシア。
まるで正反対のふたりでしたが、ウルもセシアもとても優しい心の持ち主で、お互いを愛し、また周りにも愛されていました。


ある日のこと。
セシアの背中に翼の形のアザが現れました。
それは、天上の国へ呼ばれた証でありセシアは世界を創り出していく生命の神に選ばれたのです。

 
神の国中で、セシアを祝うためのお祭りが行われました。
セシアは選ばれたことに驕ることなく、またウルもそんなセシアを誇りに思い、周りに感謝して暮らすのでした。
幸せに見えた二人でしたが、セシアは与えられた運命の重圧から、日に日に衰えて行きました。
背中のアザは、セシアの命を削っているようでした。


ウルは悲しみました。苦しむセシアを見て、胸が痛みました。
こんなに苦しんで、それでも生命の神にならなくてはいけないのでしょうか。
優しいセシア、いつも笑顔のセシア、でももうそんな姿はどこにもありません。

 
そしてある日、ウルはセシアを手にかけました。
これ以上苦しむセシアを見たくなかったのです。
いつしかウルの背中にも、翼の形のアザが現れていました。


神々は、生命の神になるはずだったセシアを殺したウルを破壊の子だと嘆き、ウルを追放しました。
ウルは、セシアを苦しめた世界を恨みながら、深い泉の底へと沈んで行きました。
今でも、神の遣いに選ばれる人の背中には羽の形のアザがあり、それは「セシアの翼」だと言われているそうです。

第一幕 収穫祭~そして、発覚

リラとミアはとても心の優しい双子。
活発なリラと内気なミアはまるで正反対ですが、誰からも愛される仲の良い姉妹でした。


ある日、村の長老から、近々国の神官が退任するという話を聞きました。
神官が退任するということは、時期神官が現れるということ。
神官になるためには、ある印が背中に現れなければなりません。
神と人の橋渡しとなる神官に選ばれることは、大変名誉なことでした。

 
村の生活しか知らないリラとミアにとっては、神官になって国に仕えるなんてことは、まるで別の世界のようなお話でした。
 
村は収穫祭の真っ只中。
名産物の果物がところ狭しと木々に実っています。
色とりどりの果物を眺めているだけで、癒されるようでした。
リラとミアはいつも一緒。
収穫をし、街に売り出しにいき、夜の収穫祭では踊ったり歌ったりして楽しく過ごしました。

 
ある日のことです。
ミアが背中に痛みを訴えました。
リラが背中を覗くと、そこには羽の形のようなアザがありました。
リラはミアの手を引いて、長老の元へと走りました。
ミアの背中のアザは、確かに神官の印であるアザでした。


ミアの名誉は、村の名誉。
収穫祭と共に、その夜は皆がミアのためにお祝いをしました。
リラも、ミアが選ばれたことを心から喜びました。

 
ですがある日、リラも背中に痛みを訴え、リラの背中にもミア同様のアザがあることが分かりました。
リラは何度も何度も背中を洗い流しましたが、アザは消えることなく、残ったままです。


リラは長老に相談に行きました。
いつもは優しい長老でしたが、長老はリラに厳しい口調で言いました。

「どちらかが呪われた子じゃ!!!!!!」

第二幕 人々の羨望と疑惑のまなざし

印の現れた美しい双子には、羨望の眼差しが向けられました。
 
通るところ、通るところ。
病を治してくださいと叫ぶ者や、失った腕を戻してくれと叫ぶ者や、大金を手にしたいと願う者が現れました。

 
そして家にいる時には、母の母の、そのまた母の妹と名乗る者や、父の叔父の子どもの親の兄弟と名乗る者が現れました。
つい先日まで話すこともなかったような人も、満面の笑みで話しかけてくるのでした。

 
神官に選ばれることは、大変名誉なことですから、誰もがその恵みにすがりたくなるのです。


そして一方で、印を持つものが二人いるということで、古い伝説を知っている長老や村人の中には滅びの女神ウルの出現を恐れて、ウルの生まれ変わりである方を抹殺しようという動きも出てきました。
仲良く暮らしていた長老と双子の間の溝も、日に日に深くなってゆくのでした。


やがて人々の羨望と疑惑のまなざしによる重圧で、リラとミアは疲れきり、より体の弱かったミアが倒れてしまいました。
ミアは日に日にやつれていきました。


ある日、リラがミアを看病していると、長老と村人がやってきました。
リラがミアに薬を飲ませようとしているのを見た村人は、叫びました。

「毒を飲ませようとしているぞ!ウルはあいつの方だ!!!」
リラもミアも必死で事情を説明しようとしましたが、誰一人話を聞いてはくれません。

 
二人に印が現れてからずっとウルを恐れていた長老は、二人を庇うどころか、どちらがウルなのかがわかってむしろ安心したような様子でした。
結局、リラは牢獄へと連れて行かれ、重い錠の音が響き渡りました。


ーガチャン。

終幕3 果てなき蒼の世界

リラには、セシアになす者として火あぶりの刑が下されました。
ミアは何度も長老を説得しようとしましたが、訴えが聞き入れられることもなく自分の無力さにうちのめされるばかりでした。
リラも毎日毎日祈り続けましたが、明日にも訪れるかもしれない処刑日におびえ、疲れきってしまいました。


ある日ミアがリラの元へやってきました。
「もう誰も話を聞いてくれない。このままだと、火あぶりにされてしまうわ。逃げましょう。」
ミアは盗んできた鍵でリラを牢獄から出し、2人揃って駆け出しました。


二人の逃亡に気づいた村人たちが追いかけてきます。
捕らえろと叫ぶ声が響きます。殺せという言葉まで飛び交います。


疲れきった女の子の足ではそう遠くへは行けません。
崖にたどり着いた二人は、もう逃げ場がないことを知りました。

そして2人は固く手を繋ぎ、深い海の底へと沈んで行きました。

昔を懐かしみ、穏やかな記憶の中に浸りながら、もうなにも失うことのない世界へと旅立って行きました。

おしまい
※終幕1・2については、「セシアの翼RevisionⅡ」にてお楽しみください。